我が家の前に広がっている大池に、今年も蓮の花が咲いた。魚釣り師のためには、池全体を覆い尽くそうとする蓮の成長は好ましいものではないと思うのだが、公園を散策しながら眺める分には、この時期の蓮は悪くない。緑波打つ葉の隙間からスクッと伸びた柄の先にピンクの蓮の花が開く。煌びやかではなく慎ましくもなく、しっとりとした簡素な美しさである。正に極楽浄土の池に咲く、清純な花なのだ。広い池を8割方埋め尽くしている蓮は、それこそ全体では千の花を付ける。夏も終わる頃、それぞれの花は実を結んで一輪に百の種を作る。池全体では十万の種を落とすことになる。水面下の泥の中では地下茎の蓮根が成長して勢力を伸ばしている。だから彼らの浸食を食い止めるのは難しい。美しいモノの背後には泥に塗れた不吉さも隠れているのだ。放っておくとあっという間に池全体が蓮に乗っ取られる。