S 釣り談義

77    River Tweed サーモンフィッシング

2010年10月9日。River Tweed
今年に入って4回目のスコットランドである。その都度ツイード川でトラウトフィッシングを楽しんできたのだが、今回はいよいよファイナルステージ、あのサーモンフィッシングに挑戦した。
水分を含んだ北海からの冷たい風が気温を10度以下に下げている。空一面は灰色の雲に覆われていて、正にこれがサーモンフィッシング日和らしいのだ。

10月5日にロンドン入りし、来春にロンドンで開く展覧会の打ち合わせを済ましてから、翌日エジンバラへ移動した。7日~8日と、今まで開催していた個展の作品の撤去と搬出。それを2日間で終わらせてから、残りの2日をマクストンのJake家で過ごすことにした。
正に私の来訪を手ぐすね引いて待ってたかの様に、翌朝から(土曜日) Jakeはサーモンフィッシングの計画を立てていた。
Land Rover彼の家の直ぐ側をリバー・ツイードがユッタリと流れ、そこには多くの鮭が遡上するのだ。彼の家から川までは歩いて10分も掛からないのだが、釣りに行く時は何時も年代物のランドローバーにロッドとウエーダーを積む。昼ご飯のサンドイッチと紅茶ポットも入れて、グーガーと派手なエンジン音を響かせながら川までの短い距離を出掛けるのだ。
リバー・ツイードは、ブラウントラウトのシーズンが9月いっぱいで終わっていて、いよいよサーモンのシーズンに突入した。今年は雨が少ないらしく、未だに川の水位が鮭の遡上に適した水量になっていないらしい。そのせいで鮭の遡上時期がかなり遅れていると聞いた。それでも通年のシーズン到来とあって、規定された人数のアングラーが長いロッドを振っていた。
サーモンフィッシングにはロッド規制が掛かっていて、指定された区域内(川が流れている土地のオーナーの領域)で、何本のロッドが入川出来るかが決められているらしい。我々が入った場所は上流から下流までが2〜3キロの中流域で、ロッド数は片岸で2本・両岸で4本なのだ。今日は彼の友人がこちら岸に入る予定になっていて、Jakeと私は一本のロッドを二人で使い回して釣る事になった。
A salmon which Jake got場所によってはロッド一本の入漁料が20万とか40万とかという場所もある。サーモンフィッシングで有名なケルソーの街を流れる流域では、1日6本の制限で、ロッド1本に40〜50万という高額な値が付いているらしい。その金額を出してまでもサーモンフィッシングを楽しむアングラーがワンサカ居るというから驚いてしまう。
ケルソーの街から15キロほど上流の我々の場所は、土地のオーナーの配慮で、Jakeに総ての管理を任せているらしい。入漁料はもちろん無料なのだ。

川の状況を確かめるために、先ずJakeが立ち込んでロッドを振った。赤黒+ティンセルのサーモンにしては大きくないチューブフライを、対岸近くまで投げて奔流を横切らせてから、また一歩分下流に移動して投げる、引いては投げ引いては投げの単調な時間が1時間程続いた。今日の鮭の活性を探る意味で、フルシンクラインとシンクヘッドとを付け替えながら、丁寧に探っていく。フラットな水面から瀬に差し掛かろうとする場所で、突然彼のロッドが撓った。彼の表情が引き締まる。大きそうだと彼が言う。フライを繋いでいる20 lbのティペットはかなり丈夫なラインなのだが、それでも魚の動きや引きに合わせて、下流へと移動しなければならない。15分程の格闘で、上がってきたのは13〜14 lb 70 〜 80 cm 銀ピカの大きな雌だった。
初物は土地のオーナーに献上するという事にしているらしくて、それをキープした。話は脇道にそれるのだが、イギリスでは雌を釣っても差して喜ばない。雌が持っている卵・すなわちイクラなのだが、全て捨てるらしいのだ。ナ・ナ・何と!勿体ないことを!! 日本ではイクラを取るために雌のサーモンは丁重にキープされるのに。捨てられたイクラを集めて日本に輸出したら大儲けが出来るよ。
一匹釣り終えて、もう少し調査するというので、引き続き彼がロッドを振った。瀬の奔流を探っている時、また彼のロッドが一層強く撓った。たたみ込む様にリールのドラッグが鳴って、ラインが出て行く。やばいバッキングラインが無くなりそうだ!と彼が叫んだ。でも魚はグイグイと下流へと走っていく。食い止めようとテンションを高めに、微妙な角度でロッドを立てて堪えている。反転した!今度は猛スピードで近寄ってくる。リールを巻いたんじゃ間に合わない。左手でラインを素早く手繰り寄せる。
血液中のアドレナリン濃度がピークをむかえるが、魚はなかなか上がってこない。数回こんな遣り取りを繰り返して、やっとネッティングできたのが 18 lb 1 m クラスの雄(写真・右)だった。とにかくネットを持って構えている私の方が緊張しまくっていたのだった。ドッと疲れた。
次は私の出番になる。私は長いダブルハンドロッドを投げたことがない。日本では15〜16フィートもの長いロッドを振って釣りをする様な川は無いし魚も居ない。もちろん湖の岸に立ち込んで、でかいブラウンやレインボーを狙うという場所はあるのだが、茫漠とした湖面にひたすら投げるという釣りが好きになれないので、やったことはないのだ。
スペイキャストも理論としては知っているのだが、体が覚えていないから、なかなか上手く投げられない。かなり立ち込んでバックキャストを取ってから投げることにする。それでも何投目かに1回は失敗する。とにかくロッドの長さとラインの重さに体が慣れていないのだ。
my salmonしばらく悪戦苦闘して、やっと慣れてきたかと思う頃、強烈な当たりがあった。先程のJakeの苦闘を見ていたから予想は出来ていたのだが、それにしても強烈な引だ。ロッドを倒さない様に必死で支える。リールはバックラインが半分ほど出て行って、もちろん私も下流へと下るのだが、小さな私が水の中でロッドのテンションをキープしながら歩くのは生死に関わる可能性もある。もはや覚悟を決めて勝負に出るしかない。ロッドを支える手に力を入れて堪えるのだが、腕も背中もパンパンに張ってくる。
どうか寄ってくれ!と叫びながら格闘した末に、ネットが届く距離まで手繰り寄せる。あと少し、よし今だ!と思った瞬間、また魚は猛烈に走り出した。彼らも必死なのだ。
とにもかくにも、最終的に上がってきたのは、先程のJakeが釣った雄と同じような大きさの雄。写真左である。
写真では軽そうに持っているのだが、実は重くて腕も肩も背中もブルブルと震えて、笑顔を作るのが精一杯だった。
この日は大漁で、二人合わせて6匹という釣果になった。Jake曰く、こんなに釣れるのは珍しいらしい。川の状況が良かったのか、選択したフライが良かったのか、魚が大量に遡上を始めたのか? 恐らくそれら全ての要因が重複したんだろうと思うのだが、日が暮れて寒さが増してくるまでリバー・ツイードの究極サーモンフィッシングを満喫したのだった。
鮭はスゴイ!

今回私は、フライのタックルは持って来ていない。もちろん私の持っているロッドやラインじゃ太刀打ちできないからなんだけど、こいつは来年のためにスペイキャストくらいはマスターしなければ!と思い立って、行き付けのセイントボスウェルズのフライショップで、14 f #9 のダブルハンドロットとシューティングヘッド+ランニングライン+リールを手に入れた。
Jakeと一緒にこのショップへ行くと、ウエーダーからロッド、ライン、リールのほとんどが超割引になる。フックやマテリアルが3割引になるのだが、今では私も日本からの珍客として完璧に顔と名前を覚えられているし、リバー・ツイードの年券も持ってるんだから、一人で行っても超割引になると思うのだが。




Copyright © Atsuo Okamoto