19    メイン州

landscape2003,12月、ボストンからコンコード・トレイルウェイの高速バスで、なだらかな丘と森と所々に宅地の点在する風景の中を北に向かって2時間、ポートランドに到着した。寒さは増したものの、残雪の量は少し少なくなった。
バスステーションでジェシー(彫刻家の友人)と待ち合わせて、彼のお父さんとお奨めのレストランでロブスターサンドを食べた。やはりメイン州に来たらロブスターなのだ。
ポートランドは大西洋に面した中都市で、住むには気持ちの良さそうな町である。ジェシーのご両親もポートランド市内、海の見える高台に住んでいた。彼は、かつて東京のアメリカ大使館で漁業関係のアジア局長を歴任した事があるらしい。海と釣りの大好きな親父さんなのだ。ロブスターをほおばりながら、2004年にフライのロッド持参で再訪する話で盛り上がった。
1時半にポートランドを出て、ジェシーの家があるスチューベンに向かう。彼は「近いよ」と言っていたのだが、なんと到着したのが夜の8時。北海道の「ちょっとそこ」が車で3時間だったのには驚いた事があるのだが、アメリカの「近くだよ」が車で6時間半だとは、フム、さすがである。
それにしても、なだらかな丘と林と車幅の広い道の連続で、どこを走っているのか皆目分からない。ポイントとしての風景の特徴・強弱がほとんど無いのだ。ほぼ正確に500メーター間隔で、ポツンポツンと一軒ずつ現れる民家には、クリスマス飾りの電飾が、俺たちはここに住んでんだぞ!とばかり輝いていた。交通量は極端に少ないのだが、擦れ違う車の3台に2台はピックアップトラックだ。アメリカのカントリーマンは、ピックアップトラックにこの上ないステータスを感じるらしい。ドデカイ新車から錆が周ってボコボコになった車まで、思い思いのキングキャブが、とにかく誇らしく走っていた。
Jesse's house
ジェシーの家と仕事場は、カナダに近いスチュウベンという村にある。村と言っても集落がある訳ではく、広大な森林と複雑な入江が交錯する自然の中にポツッンポツッンと家が点在するロケーションで、翌日村のダウンタウンとかに案内してもらったのだが、小さな役場と教会と小さな分校の様な小学校があるだけだった。正にダウンタウンの極致である。この地域にはロックフェラーなどの有名人の別荘があるらしくて、暖かくなると少しは人工が増えるらしいのだが、冬は山猫や鹿やヌウやコヨーテが走り回る空間なのだ。次の朝ジェシーの敷地を探索して廻ったのだが、家の周りの雪上に、鹿とコヨーテの足跡があった。とにかく想像を絶する楽園的度田舎である。
彼は自宅の敷地の中に、小さな石切場をもっている。20トンクレーンと10トンダンプ2台、中型のバックホーと陸送のためのトレーラーまで持っているのだ。敷地に小さな川が流れていて、時期にはフィッシングも可能だとの事。日本の狭い空間で、あくせく周りに気を遣いがら仕事をしている日々がイヤになってきた。
quarryメイン州はそこいら中に岩盤が顔を出していて、地面の直ぐ下は御影石や安山岩の岩盤らしい。ここの風景がスカンジナビアと似ている様な気がする。スカンジナビアも安定したグラニットの岩盤の上に、町や村が作られているから、似ているのかも知れない。・・・と言う事で翌日、メイン州に点在する石切場を廻る。良質の白御影・黒御影・バサルトの岩盤が横たわっているから、どこを掘っても石切場になるらしい。写真は、黒御影石の石切場である。
ただ、ここでも安価な中国製品の乱入で、採算の取れる石材業な無くなりつつある、と職人さんが漏らしていた。市場価格の1/10で多売されると、打つ手がないのだ。しかも著作権なんて無きに等しく、そっくりの製品が右から左に大量に出回るのだから、質が悪い。石切場の職人さんが見せてくれた中国製商品のカタログの中に、1991年に大和村で開催された彫刻シンポジウムで、ジンバブエの著名な作家ニコラス・ムッコンバラ・ヌア氏(一昨年死去)が同村で作って、村の主要交差点の側に設置した男女の彫刻像と、瓜二つの商品の写真があったのには、さすがに驚いてしまった。当時ニコラス氏が使った原石に在った削岩機(石を切り出すために付いたドリル)の跡までそっくりなのだから尋常ではない。いつの世でも、真似た商品が横行するのは止めようがないのだが、それを有り難がって買う消費者の心情が、理解できないのだ。
2004年の夏に、ジェシーの所で仕事をする(作品を作る)事にした。勿論フライロッドと手制のフライ持参である。

雑談紀行



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