形の発掘と鍼灸(2024.1月)

石の発掘を続けている。
今年の5月半ばから、大阪の野外空間(アートコートギャラリーから延びる遊歩道)OAPタワー前の川沿いの遊歩道に設営されている80cm角の台座の上に、彫刻を1年半展示する展覧会のために、今年に入ってから制作を続けている。
コンセプトは自由なのだが、既に設けてある台座上をベースに長期展示に耐えうる作品を設置する必要がある。
野外という事で大きな物量をイメージしがちだが、台座の上をベースに展開しなければならないという制約で、石の野外彫刻としては小さい作品になる。
人が持ち去る可能性を排除しつつ、大阪の都市空間(側のOPA高層タワー)と対等に、もしくはそれ以上に存在意義のあるモノにしたいと考えながら作業を続けている。
視覚的に、側に聳える巨大なOPAタワービルを凌駕することは不可能だが、人の意識や感性・観念の中で、地上を離れて宇宙空間に浮遊する様な彫刻を夢見ている。
果たしてどうなるか? ワクワクしながらの制作だ。

heart
原石(白御影石)のツボに針の穴を通していく。まるで鍼灸師。
heart
中心で繋がった穴を発掘する
heart
塊の表面に、息をする穴を開ける
heart
脳の中心で空洞は繋がっているのだ!!


発掘(2022.4.)

石に空けた坑を発掘する作業を続けている。以下のコーナーにも書いたのだが、目に見えない石の中の空洞や、その空洞の形状にとても興味があって、私の嗜好を捉えて放さない。
2022年に入ってからの制作にも、石に空けた坑を発掘する作品制作を続けている。
下の写真だが、先ずは大きな玉石(ボールダー)に私が任意の坑を空ける事から始まる。その坑は3〜3.2cm径で60〜100cmの深さなのだが、向こう側に突き抜ける事はない。石の中で止まった坑なのだ。その坑を石の中から掘り出して行く。坑が通っているはずだという記憶を頼りに、その坑の方角や長さを石の表面にある坑の入り口から計算し、坑の位置を割り出していく。割り出した坑の位置を信じて、坑が見えない石の内部を彫り進むのだ。
自分が掘り出している四角柱や円柱の中心には、間違いなく坑が通っているはずなのだ。石という素材に対して、円柱や角柱を先に作ってから、その中に坑を通せば簡単だと考えられるが、石の細い角柱や円柱に長い坑を通す事は100%不可能なのだ。だから先に坑を空け、その開いた坑を見えない石の内部から掘り出して行くしかないのだ。
 その何所が面白いの?? と聞かれたら、病みつきになる程のスリルかなあ? ・・・・・・・。

basalt boulder
玉石の原石:約 2.3 ton
drill three holes
玉石の原石に削岩機で3本の坑を空ける。
basalt boulder
玉石の原石に3本の坑の方向と長さを、正確に墨付け
excavation-2
この墨付けで間違うと、坑が穴として表れてきて、坑では無くなってしまう。
excavation-3
穴の方角と長さを四角形に切り出していく
excavation-4
エジプトの巨石を切り出す、石切り場の様相を呈している
excavation-6
石を丁寧に彫り進めて、円柱を掘り出して行く。
excavation-7
石の中に開いた坑(空洞)の円柱形が、石の内部から掘り出される


穴 or 坑(2022.1.)

私は石の中身、秘められた空間に興味を持っていて、様々な形で石の中に空洞を作る作品を制作してきた。棺桶のような「記憶体積」シリーズだったり、太古の海水を蓄える「CRUST」シリーズ、人が入る事の出来る「COCOON」シリーズ、平和への折り鶴が入った「UNIT」シリーズ、ドリルで穴を空けた「hole」、息を始める「Excavation」シリーズだったりした。
大学を卒業した頃から手掛けていた、異質な媒体に入り込む球や円柱、四角柱のシリーズも何回か作り続けて来た。

ここ10年程、石に開けた穴に嵌まりまくっている。自分で作った穴に嵌まり込んで抜け出せなくなっているのだ。
「穴 or 坑」とは? 物質に空けられた空洞?、時空に開いた異次元空域? 言い方は色々あるのだが、何れにしても穴という概念が成立するためには、穴が開けられる媒体が不可欠であことは間違いない。その媒体とは?すなわち穴を空けられる母体である。
例えば穴を開ける対象としての石だったり、木だったり、コンクリートだったり、トンネル坑を開ける大地だったり山だったりする。逆に言うと媒体の無いところに穴は存在しない訳だから、穴という事は必ず坑を成立させる母体がある訳だ。
もう一つの条件として、穴は、穴のある媒体(母体)を主体として認識しているという事実である。すなわち目の前に山が存在するという事実を前提として認識しているからこそ、そこに掘られる空洞を穴として認識できるのである。逆に空洞を主体として認識していたならば、山は空洞の周りにへばり付いた地面の集合体という事になってしまう。
穴の中には何が充満しているのかというと、空間が充満している。それは空気だったり、水だったり、はたまた真空だったりするのだが、母体を構成する物質ではないモノが母体の中に入り込んでいる現象である。
その穴が無くなるという事は、穴という概念を成立させている媒体が無くなるという事。

そこで私の彫刻観からの欲求として、物質に開けた穴・開いた坑を発掘してみたいと思った事である。物質の中に入り込んでいる穴 or 坑空間を彫刻として彫り出すのだ。
実に矛盾しているのだが、物質をして空を発掘し彫り出すこと。空間を彫り出すという事は、最終目的として目に見えない穴の形状、空間の形状・空気やエネルギーの形状というか、それが彫り出された時が見事完成という事になる訳だが・・・。完璧に彫り出された時、今まで穴を成立させていた媒体も、穴という空間も含めて、その概念自体が全て消滅しているのだ。だから抜け出せない、陥穽に嵌まってしまうのだ。

嘗て設置した広島国際空港のモニュメント・「地球・一つの球体のために」と題した円柱作品も、近年制作を再開した「水を彫る」や「カルデラ」と題した屈折作品も、地球や大地・もしくは水という媒体に入り込んだ繋がったエネルギーの穴という概念として表出された石の円柱や角柱だったりが、エネルギーの主体として彫り出された形状だとすれば、全てが結び付いてくる。

working-forest
穴(坑)を発掘中
forest-planet2011-3
Forest planet( Warwick Art Center 蔵)
forest-planet2011-2
Forest planet( Warwick Art Center 蔵)
forest-planet3
Forest planet( Warwick Art Center 蔵)
f-breathing
excavation breath
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excavation BB-No.27(G.せいほう)
excavate-water
水を彫る(伊勢現美)
fossil-1
excavate a fossil(G.東京ユマニテ)
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CALDERA(G.東京ユマニテ)
caldera-2-2
CALDERA(G.東京ユマニテ)
colums through into the earth
広島国際空港の「地球・一個の球体のために」(世界各地の国際空港から地球を突き抜けて出てきた円柱)


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