冷たい北風が吹き付けて、座ったままで石の手磨き作業は辛い。だからと言って手を抜くわけにはいかないから、じっと寒さに耐え砥石を掴んだ手をシコシコと動かしている。夕方になると、風はいっそう冷たく吹き付ける。ふと空を見上げると、クレーンの上に半月が昇っていた。冷たい海のクラゲの様に、半透明にフワフワと漂っていた。そろそろ仕舞い時だな。砥石を片付けて、磨き残しのある作品も仕舞って帰り支度をする頃、空は暗い紫色に変わっていた。そこには、皎々と輝きを増した半月があった。もう漂うクラゲじゃない。目覚めた初々しいビーナスのお尻のようだ。