97   円柱が消えた日 2022年8月9日

日常の風景の中で、当たり前のこととして視界に入っていたモノが、突如消え去った時、それが発信していた静かなエネルギー、それが存在した理由に気付く。
ロジカルに金勘定を優先する世の中で、役立たずと見られていたものが消え去って、それが在る事の大切な理由に気付かされるのだが、もう遅い。

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開港以来、空港ビルの正面に乱立していた円柱作品
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撤去されて、残骸だけになった空港正面。

--写真提供 金本啓子さんのfacebookより--

無くなってみて思うのは、この作品が持っていた彫刻としての不可解さと強烈な独自性のことです。
ターミナルビルを出たら円柱群が乱立している風景に出会います。こんな広島空港の当たり前になっていた風景が、突然無くなってしまった。撤去され更地になった写真を見た時に、ここは広島じゃないと思いました。普通の何所にでもある地方空港になってしまったのです。
彫刻には社会インフラとしての有用な機能はありませが、それがそこに在ることによって、場全体を昇華させる強烈な磁場を派生させる事があります。有用な機能・便利な機能が無いからこそ大切だったのです。来年にはこの場所に立派な機能を持った、何処にでも在るような駐車場ビルが建って、より便利になるようですが・・・。

今までこの彫刻を残すために作者として色々な提案をしてきました。新しいオフィスビルの地下にローマンシュトラッセの遺跡が広がっているドイツの話しだったり、円柱の隣に車が駐まっていたり、カフェのテーブルの間から円柱が突き出て立っていたり、ブティックがあったり。その方がカッコ良いんですよ!市民の中に彫刻が入っていくこともとても大切なのです。等々多くの提案をしたのですが、全て却下されて、17本の円柱を別の場所に移設することになりました。その理由については下記に記しています。
この作品は普通の彫刻ではなくて、設置する場と世界の国際空港等との関係性を地球をベースにして展開し設置している作品です。移設と言うことは、今まで在った関係を断って、新たな場所での関係性を模索し計算し直さなければなりません。それは全く新しい作品として立ち上げることと同じなのです。簡単じゃない。

円柱彫刻(モニュメント)がこの場から撤去され、円柱の半数強を新たな場所に移設することになった苦渋の決断と理由は、このモニュメントの所有者と、設置している土地の所有者が違っていた(モニュメントの所有は県で、土地の所有は国)だったということにあります。空港開設以来、県はモニュメントの土地使用料を国に払い続けていたようですが、数年前から空港が民間の運営合資会社に経営移譲することになり、元々駐車場が足りなかったことを受けて、このモニュメントの建っている地面に立体駐車場を建設するというプランで、移譲委員会の審査をパスした様です。
作品の所有者である県は、何とか作品を残す様に新会社に様々な提案をしていたそうです。でも県から民間の会社対して強制的な命令は出せないわけです。私からも現状を残して駐車場を併設するプラン等々を色々提案したのです。
県の条例として所有するモニュメント彫刻(文化財)を無償で民間に無償譲渡することは出来ないらしく、民間としても譲渡されていないモニュメントの維持経費の増大が理由なのか、受け入れられなかった。譲渡されていないモノに関して、何の提案も出来ないし、新たな計画も立てられなかったと言っていました。
結局モニュメントを存続させるためには、県の所有する土地に移設するしか方法がなくなったわけです。今までの3年間、県の担当者が私の住むつくば市に何回も足を運ばれて、今後のやり方や進め方について協議してきた経緯があります。
これに関わっていた人達は、モニュメントを撤去し潰した方がいいなんて誰も思っていなかった。それが真相です。
強いて言えば、金勘定を最優先する世の中、アートさえも金勘定が価値を決める世の中が、広島空港の円柱モニュメント「地球・1個の球体のために」を失わせたのでしょう。

半年程前、web上の企画で、公共彫刻をテーマとしたパネルディスカッションがあり、知り合いがパネラーとして参加しているということで、拝聴させてもらっていた。その最後の方になって、聴視者である私に突然発言を求められたのです。折しも広島空港の円柱彫刻作品問題で右往左往している時で、ちょうどいい機会だからと思いこの話を始めたところ、30代と思われるコメンテーターターぽい女性から、「あ!それってバブルですよね」と簡単に切り捨てられてしまった記憶が蘇ります。あまりに突然で、ディスカッション会場の「いいねいいね」の雰囲気に反論を展開するエネルギーを持ち合わせなくて、「もっと勉強して下さい」と返すのが精一杯だった。ムッとして直ぐに退席したのですが、こんな浅薄な認識が、世の中を引っ張っていくことの危険性をヒシと感じたことを思い出したのです。

ただの雑談

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